最高裁判所第二小法廷 昭和28年(オ)1124号 判決 1955年7月15日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告理由第二点および第三点について。
原審の認定によれば、原判示の如く、元来被上告人の罹災焼跡である本件土地に上告人が、応急的簡易住宅を建設してこれに居住し、右土地を一時無償で使用することを許されたのは、親戚たる被上告人の情誼と同情に基いたものであること、右無償使用の契約については、被上告人において、さきに同地上で永年経営していた旅館業を再開するため、建築に着手する際には、上告人は直ちに無条件で右土地を明渡すべき約旨であつたこと、しかるに、その後、被上告人において、旅館建築工事施工のため、上告人に対し土地の明渡を求めるや、上告人は約旨に反して容易にこれに応ぜず、折柄、諸物価賃金は日々に昂謄し、被上告人が工事遅延のため多大の損害を受くべきことを憂慮し、その処置に困惑していた状況に乗じ、結局、上告人は、被上告人をして、右土地の明渡を受けるため、被上告人の旅館経営上重要不可欠な帳場に充つべき玄関脇一室を上告人に無償で使用させるという苛酷な条項を受諾するの止むなきに至らしめたものであることが明白である。そして以上の事実、その他原審認定の一切の事実関係を綜合すれば、原審が、右室の無償使用に関する本件契約は民法九〇条に照らし無効であると判断したのは正当であつて、これを攻撃する論旨第三点は理由がない。そして、右契約が無効である以上、その契約が使用貸借の予約であり、該予約は解除によつて終了した旨の原審の判示は、ひつきよう無用の説示にすぎないから、これを非難する第二点の論旨も採用し難い。
その他の論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)